シンドバッド・ストーリーブック・ヴォヤッジの前身「セブンヴォヤッジ」の“鬼”が忘れられない|旧版から読み解く航海の物語

東京ディズニーシーのアラビアンコーストにある「シンドバッド・ストーリーブック・ヴォヤッジ」。チャンドゥがかわいくて、「コンパス・オブ・ユア・ハート」が耳から離れない、あの癒やしの船旅です。

でも、開園当初からシーに通っている方なら、きっと覚えていますよね。財宝が眠る洞窟の奥で、乗組員を捕らえていたあの“鬼”のことを。

今では牢屋に閉じ込められ、シンドバッドに助けられて一緒に歌っているあの巨人。実は2001年の旧版「シンドバッド・セブンヴォヤッジ」では、まったく逆の立場の存在だったんです。

今回は、旧版の“鬼”をこよなく愛する私が、セブンヴォヤッジの物語と、2007年のリニューアルで何が変わり、何が残ったのかを、ヲタク目線で全力で語らせてください…!

目次 Outline

シンドバッド・ストーリーブック・ヴォヤッジとは?

まずは現在のアトラクションについて、簡単におさらいしておきます。旧版の話をする前に「今」を押さえておくと、このあとの比較がぐっと味わい深くなりますよ。

現在の基本情報と「最高の宝物」を探す物語

シンドバッド・ストーリーブック・ヴォヤッジは、アラビアンコーストにある約10分間のボートライドです。1隻の定員は24名。私たちゲストはシンドバッドの船団の船員として、相棒の子トラのチャンドゥとともに「最高の宝物」を探す航海へ出発します。

嵐や盗賊といった困難に出会いながらも、“心のコンパス”を信じて進んでいく——というのが、公式が示している現在の物語です。

ちなみにチャンドゥは、原典『アラビアンナイト』のキャラクターでも映画のキャラクターでもなく、このアトラクションのためのTDSオリジナルキャラクター。ここでしか会えない子なんですよね(尊い)。

2001年、開園とともに始まった「シンドバッド・セブンヴォヤッジ」

さて、ここからが本題です。今のシンドバッドは、実は“二代目”。東京ディズニーシーが開園した2001年9月4日、この場所で航海を始めていたのは「シンドバッド・セブンヴォヤッジ(Sindbad’s Seven Voyages)」でした。

「未知の危険」と「想像を絶する富」を巡る大人の冒険

ディズニー公式ファンクラブD23の解説によると、セブンヴォヤッジは『アラビアンナイト』の幻想的な世界を巡り、未知の危険と想像を絶する富に出会うボートライドとして紹介されています。

開園当初のシーは「大人のディズニー」を強く打ち出していたパーク。旧版もその方向性に沿って、劇的で重厚な冒険譚として設計されていました。照明は暗めで、音楽はドラマチック。あの独特の緊張感、たまらなかったですよね…!

旧シンドバッドは“財産を使い果たした商人の息子”だった

旧版のシンドバッドは、今の爽やかな青年とはまったく違う背景を持っていました。当時のガイドブックを再録した資料によれば、彼は大富豪の商人の息子。父の死後に莫大な遺産を相続したものの、贅沢な暮らしでほとんどを使い果たしてしまいます。

そこで残った家財を売って元手をつくり、船を手に入れ、商人として再起するために航海へ出る——。つまり旧版は「失った富を取り戻す」ための旅だったんです。髭をたくわえた成熟した冒険家という姿にも、この背景がにじんでいました。

Qラインのタペストリーと絵画が語る、主人公の過去

この前日譚を語っていたのが、Qライン(待ち列)です。入口から乗り場までに飾られたタペストリーと絵画が、シンドバッドの生い立ちから出航までを順に描いていました。当時のファンの記録では「1枚のタペストリーと6枚の絵画」だったとされています。

並んでいる時間そのものが、物語のプロローグになっていたわけです。

旧版の航海をたどる|鬼が待つ洞窟までの道のり

では、旧版の航海を順番にたどっていきましょう。当時のガイドブックを引用した記録をもとに再構成しています。今の航海を知っている方は、「あのシーン、昔はこうだったのか!」と重ねながら読んでみてください。

天文学者の予言とウツボ女の誘惑

バズラの市場を出ると、まず天文学者が航海の危険を予告します。旅の始まりから不穏な空気…!

嵐の海では、妖しい「ウツボ女」が船を岩礁へと誘い込み、あたりには難破船の姿が。今では人魚たちがシンドバッドを救ってくれる岩場ですが、旧版では船乗りを破滅へ誘う場所だったんですね。

ルクの卵と怒れる親鳥

ルク島では、空腹の乗組員たちが巨大な卵を見つけ、食料にしようとします。ところがそれは怪鳥ルクの卵。怒った親鳥に、仲間が捕らえられてしまいます。

今は「盗賊から守ってあげる」卵が、旧版では人間側が手を出してしまう卵だった。この対比だけでも、物語の価値観の違いが見えてきます。

財宝の洞窟に潜む鬼|乗組員を捕らえ、シンドバッドと対決する

そして、いよいよ筆者いちばんの推しシーンです。

洞窟で財宝を見つけ、喜ぶ乗組員たち。しかしそこは巨大な鬼の住処でした。鬼は財宝を守り、乗組員を捕らえてしまいます。シンドバッドは仲間を救うため、この鬼と対決することに——。

(ここにご自身の記憶:鬼の表情・大きさ・動き・声、初めて見たときの怖さや衝撃、なぜ好きだったのか など。この記事の一番熱いパートなので、思い切り語ってください!)

原典『シンドバッドの冒険』でも、第三の航海に登場する人を襲う巨人は「人食い鬼」と訳されることが多い存在です。旧版の鬼は、まさに物語の“恐怖”を一身に背負ったキャラクターだったといえます。

猿人の威嚇と、島だと思った巨大クジラ、そして帰還

鬼のもとで得た財宝は王に売られ、航海は続きます。猿人の島では、猿人たちが岩や槍で船団を威嚇。さらに船員たちが「島」だと思って休んでいた場所が、実は巨大なクジラの背中だったという危機にも見舞われます。

数々の危険を乗り越えたシンドバッドは、莫大な富とともにバズラへ帰還。当時の資料は、彼が得たものを財宝だけでなく「勇気」や「強い意志」とも説明しています。まさに王道の冒険譚です。

旧版を支えたクリエイターたちのこだわり

旧版の迫力を支えていたのは、とんでもない規模の作り込みでした。旧版のショーデザイナーで、アラビアンコーストのリード・アートディレクターだったラリー・ニコライ氏のインタビューから、その裏側を見ていきます。

160体超のアニマトロニクスと約6年の歳月

ニコライ氏の回想によれば、旧版には160体以上のアニマトロニクスが使われ、設計から製作・設置までに約6年を要したそうです。当時のガイドブック系資料には「163体」という記録も残っています。

人間型のフィギュアは約1メートル級。そこにルク、鬼、クジラといった巨大な存在が加わるのですから、壮大な人形劇といっていいスケールです。あの鬼の圧倒的な存在感も、この規模感の中にあったからこそなんですよね。

バディ・ベイカーによる劇的で重厚なスコア

音楽を手がけたのは、ディズニー・レジェンドのバディ・ベイカー氏。ニコライ氏によると、往年の映画音楽の巨匠バーナード・ハーマンを思わせるような、危険とドラマを感じさせるスコアを狙ったそうです。

洞窟の暗闇に重厚な音楽が響き、その奥に鬼がいる。あの空気感は、音楽なしには成立しなかったと思います。

なぜ物語は変わったのか|「怖くて不人気だった」だけではない理由

ネットでは「怖すぎて不人気だったから明るくなった」とよく言われますが、実情はもう少し複雑です。

ニコライ氏は、物語がゲストに十分伝わっていなかったこと、トーンが暗く重いという評価があったことなどを挙げています。一方で、ボートライドは処理能力が高く、パークの奥という立地もあって、そもそも列が長くなりにくかったとも語っています。

「待ち時間が短い=不人気だった」と単純には言えない。複数の要因が重なって、大幅なストーリー改訂へ進んだと考えるのがよさそうです。

2007年、鬼は“心優しい巨人”になった|ストーリーブック・ヴォヤッジの再解釈

2007年、セブンヴォヤッジはストーリーを改訂し、「シンドバッド・ストーリーブック・ヴォヤッジ」として生まれ変わります(当時の刊行資料を出典とする記録では、旧版の運営終了は2006年9月29日、新版オープンは2007年3月29日)。

ここで面白いのは、セットや怪物を捨てたのではなく、その“意味”を書き換えたことなんです。

若返ったシンドバッドとチャンドゥの登場

新しいシンドバッドは、若々しい青年の姿に。そして相棒として子トラのチャンドゥが加わりました。旅の目的も「失った富を取り戻す」から「最高の宝物を探す」へ。主人公が変わったことで、世界の見え方そのものが変わっていきます。

捕らえる側から捕らわれる側へ|巨人の洞窟で起きた180度の反転

旧版ファンとして、いちばん胸が熱くなるのがこのシーンです。

かつて乗組員を捕らえ、シンドバッドと対決していた鬼。現行版では公式に**「心優しい巨人」**と紹介され、牢屋に閉じ込められている側になっています。シンドバッドは、ルクからもらった羽を使ってこの巨人を救い出すんです。

救出された巨人は財宝の中で楽器を奏で、低い声でシンドバッドと一緒に歌います。

捕らえる側から、捕らわれる側へ。対決する相手から、救い出す友人へ。

同じ洞窟、同じ巨人なのに、物語上の役割はほぼ180度反転しています。旧版の鬼を知っていると、あの巨人の歌声がなんだか泣けてくるんですよね…(わかる人にはわかる)。

(ここにご自身の気持ち:今の巨人を見たときに感じること など)

ルク・サル・クジラも“敵”から“友達”へ

反転したのは鬼だけではありません。

存在旧版(セブンヴォヤッジ)現行版(ストーリーブック・ヴォヤッジ)
岩場ウツボ女が船を岩礁へ誘う人魚がシンドバッドを救う
ルク卵を巡って人間と衝突盗賊から守ってあげる存在
巨人乗組員を捕らえる“鬼”囚われた心優しい巨人
サル岩や槍で威嚇する猿人音楽で友達になる相手
クジラ島と間違える未知の危険背中に乗せて故郷へ送ってくれる友達

旧版デザイナーのニコライ氏は、現在も元の設計の80〜85%ほどが残っているという見立てを語っています(公式の数値ではなく本人の回想です)。つまり、私たちは今もあの旧版の舞台の上を航海しているんです。

羽・楽器・バナナがつなぐ“善意の連鎖”

現行版のもう一つの魅力は、前の場面の出来事が次の場面につながっていること。公式ブログも「ある場所で手に入れた宝物が、ほかの場所で役立つ」と解説しています。

ルクを助けて羽をもらう → 羽で巨人を救う → サルタンから楽器をもらう → 楽器でサルと友達になる → サルからバナナをもらう → クジラに乗って故郷へ。

旧版の「危険を克服して富を得る」構造が、「誰かを助け、助けられ、そのつながりが次の出会いを生む」構造に組み替えられているんです。

コンパス・オブ・ユア・ハートが旧版の重厚さを置き換えたもの

旧版の重厚なスコアに代わって航海を彩るのが、アラン・メンケン作曲の「コンパス・オブ・ユア・ハート」。作詞のグレン・スレイターとともに、このアトラクションのために書き下ろされた一曲です。

メンケンが語る「隣の部屋と音がぶつかる」作曲事情

メンケン本人はD23のインタビューで、ボートライドの音楽には特有の難しさがあると語っています。ボートが部屋の境目を通るとき、隣り合う部屋の音楽が同時に聞こえてしまうため、映画のように自由に転調できないのだそう。

約10分間、同じ旋律が編曲や歌い手を変えながら流れ続けるのは、単なる使い回しではなく、ライドという空間に合わせた音楽設計だったんですね。

救出された巨人も歌に加わる|出会うほど増える歌声

航海が進むにつれて、巨人やサルタンなど、出会ったキャラクターたちが次々と歌に加わっていきます。友達が増えるほど、歌声も増えていく。

旧版で恐怖の象徴だった鬼が、今はこのコーラスの一員になっている。ここは公式設定ではなく筆者の読み解きですが、音楽そのものが「つながる冒険」を表現しているように感じます。

今も残る旧版の面影を探すヲタクポイント

旧版を知っている方も、知らない方も、次に乗るときはぜひこんな視点で航海してみてください。

  • 巨人の洞窟で“かつての鬼”を重ねて見る:同じ場所で、彼が昔は何をしていたのかを想像すると、救出シーンの味わいが段違いです
  • 「形」より「役割」に注目する:ルク・巨人・サル・クジラが、昔は何をしていて今は何をしているのか
  • Qラインの絵を見比べる:旧版は「主人公の過去」、現行版は「これから起きる冒険の予告」。役割が過去から未来へ変わっています
  • クジラの正面を観察する:ニコライ氏本人が、クジラの正面に大きな“隠れミッキー”があると証言しています(公式の隠れミッキー情報ではありません)
  • 帰還シーンの積み荷を見る:羽、財宝、楽器、バナナ……旅の記憶がすべて港に戻ってきます

まとめ|“征服する冒険”から“つながる冒険”へ

旧版「シンドバッド・セブンヴォヤッジ」は、未知の危険を乗り越え、富を持ち帰る冒険でした。そして現行の「シンドバッド・ストーリーブック・ヴォヤッジ」は、出会った相手に手を差し伸べ、そのつながりの中で「最高の宝物」を見つける冒険です。

世界から危険が消えたわけではありません。変わったのは、シンドバッドと世界との関係でした。

だからこそ、旧版の鬼の怖さを知っている人ほど、今の巨人が歌う姿に特別な気持ちを抱けるのだと思います。あの鬼が好きだった私にとって、今の航海は旧版の“続き”のようにも感じられるんです。

次にアラビアンコーストを訪れたら、ぜひ洞窟の巨人に「昔は怖かったよね」と心の中で話しかけてみてください。きっと、いつもの航海が少し違って見えるはずです。

この記事を書いた人 Wrote this article

Tsuppy0129

Tsuppy0129 男性

はじめまして、Tsuppuy(ツッピー)です!茨城在住のアラサー、普段は技術派遣エンジニアとして働いています。大好きなディズニーを中心に、映画やアニメ、ゲームの「知ってるともっと楽しくなる」解説やバックグラウンドストーリーを発信中。好きなことを好きなだけ語りたくてブログを始めました。同じ沼にいる人も、これから沼る人も、一緒に楽しんでもらえたら嬉しいです!

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